2015年に海外ドラマにもなった、ラストキングダムのレビューです。洋書とオーディオブック両方を読み聞きして、ストーリーに惚れましたので、その魅力や教材としての難易度をお伝えします。
主人公がもう本当にかっこいい!幼年期からはじまるんですが、子供ながらに男としての美学をもっています。男のロマンが好きなら、もう主人公が好きというだけで続きが読みたくなります。また乱暴さの代名詞のようなバイキングのお話だけあって、荒々しい男の世界がカッコいいです。
僕はオーディブルを聞きながらKindleで読みました。英語を勉強するのに、物語を楽しみつつ、好きなタイミングでしっかり単語などを参照できる、最高の手段なんじゃないかと思っています。
ドラマはドラマで、とてもいい味が出ていると思います。オーランドブルーム似のイケメン、アレクサンダードレイマン主演ですので、女子が観ても楽しめるんじゃないでしょうか。
ぞうさんのおすすめ度 ★★★★★
以下の人におすすめです。
- 中世の物語が好きな人
- バイキングものが好きな人
- イギリスの歴史に興味がある人
- ヒロイックファンタジーが好きな人
- 男の友情が好きな人
- 戦士の哲学、美学が好きな人
- 北欧神話が好きな人
- 綺麗事よりもリアリティのあるドラマが好きな人
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あらすじ
主人公Uhtred(ウートレッド)は、イングランド北部の小領主の息子です。しかし、幼い頃にバイキングに捕虜にされてしまいます。通常は殺されるか、身代金と交換されるところ、ウートレッドはその勇気からバイキングの首領 Ragnar(ラグナー)の目に留まり、寵愛を受けます。
ウートレッドも、奇跡を起こしてくれないキリスト教には疑問を抱いていたこともあり、バイキングの勇気と名誉を重んずる精神に傾倒していきます。やがてウートレッドはイングランド人であるにもかかわらずラグナーの子であると自認し、それを誇りとするようになります。
しかし血はイングランド人であり、父の領土の正統な継承者でもあります。いつかは領土を自分の手に取り戻すことも、彼の人生の目的です。ラグナーは家族同然ですが、領土を取り戻すためにはバイキングと戦わなければなりません。それはラグナー一家と戦う可能性も意味するのです。
この矛盾を、ウートレッドが時には汚れ仕事もこなしながら、美学を持って切り抜けていくところが本作の面白味だと感じます。葛藤しながら苦難を切り抜けていく主人公に自然と感情移入させられるのです。綺麗事の介入する余地のない、ダークヒーローのカッコよさに、ページを捲る手が止まらなくなります。
歴史的背景
8世紀から9世紀にかけて、イギリスはデンマークのバイキングに侵略されていました。物語が始まる866年頃には、イングランドはバイキングの猛攻を受け、領土を一つ一つ切り取られている状態でした。
このころはスコットランドとウェールズは、イングランドから見て人種も違う外国なので完全に蚊帳の外、ほとんど出てきません。イングランド単体ですら、いくつもの王国に分かれていました。現代でも、イギリス人は自分のことをイギリス人とは言わず、イングランド人、スコットランド人などと名乗ります。このアイデンティティの成り立ちも、本作を読んでいると感じることができます。イングランド人が「ウェールズ人は戦士ではない」と、戦う相手として弱い、楽勝だと評価していたりします。
人種的に見ると、イングランド人とは、ヨーロッパ大陸から侵略してきたアングロ・サクソン人です。(英語は「アングロの言葉」だから、イングリッシュといいます。)それまでイングランド及びウェールズに住んでいたブリトン人は、ウェールズにはそのまま残りました。ブリトン人は、話す言葉もイングランド人とは違いました。
主人公と深く関わるイングランドの王の一人Alfred the Great(アルフレッド大王)は、イングランドをバイキングの侵略から守ったとして、その功績を称えられています。イギリスの王は、William the Conqueror (ウィリアム征服王)や Richard the Lionheart (リチャード獅子心王)など、異名を持つ王は少なくないですが、the Great ってすごいですよね。「アルフレッドと言ったら偉大な王、偉大な王と言ったらアルフレッド」ということですからね。彼がいなければ、今イギリスは無く、英語も世界共通語にはなっていなかったかもしれないことを考えれば、それもうなずけるところなのでしょうか。
宗教的には、ローマ帝国がもたらしたキリスト教と北欧神話の戦いになります。圧倒的侵略者のバイキングの中に、敗戦国の宗教であるキリスト教に改宗してしまう者が出てくるのは何故なんでしょうね。厳しい戦士の掟より、安息を求める者もいたということなのでしょうか。それとも、キリスト教が洗練されて見えたのでしょうか。
ただ、大多数のバイキングは残酷で即物的で、戦神トール(Thor)の信者でした。聖書の矢が全て避けていく奇跡に僧侶が言及したところ、大勢で矢を射かけて殺してしまいます。盲目的な信仰を鼻で笑う態度に、残酷さが伴っているところが、いかにもバイキング的です。
豆知識
バイキングって?
バイキング本人達にとっては、自分達がバイキングであるという自覚はありませんでした。作中のバイキングは主にデンマークが本拠地であり、自らをデンマーク人(Danish)と呼んでいました。バイキングとは、略奪行為を指す言葉であったようです。
バイキングの船
バイキングは船を担いで、本来船の行けないはずの場所に奇襲をかけたとの逸話があります。この逸話について納得できる根拠をデンマークのバイキング博物館で見てきました。
彼らはノコギリを使わず、斧やノミで板を切り出します。ノコギリで切り出すと、表面の繊維は壊されてしまいます。繊維が破壊された部分は船体強度に貢献しないため、船の重量が重くなってしまいます。一方、斧で切り出すと繊維の壊れた部分が無い分、軽くできるそうです。だから彼らの船は軽く、乗組員が持ち上げることができたというのは理にかなった話でしょう。
バイキングの兜
二本の角が出た兜は後世の創作であり、本当のバイキングがかぶっていたものではないそうです。剣や斧を振り回す時に当たってしまうだろうことを考えれば頷けるところですね。
北欧神話
トール(Thor)は雷の神で、力を象徴します。ハンマーのペンダントを首にかけている描写は何度も出てきます。戦士の主な信仰対象ですね。なおハンマーの柄が短いのは、鍛錬中にロキがいたずらをしたための失敗によるものです。このトールは、映画マイティソーの典拠でもありますね。
バイキングの美学
戦いの中で勇敢に死に、ヴァルハラへと召されることが最高の名誉です。そのため、死地においても決して後ろを見せません。だから、バイキングの自意識は殺戮者ではなくて、戦士なんです。勇敢な敵は讃え、臆病な敵は蔑みます。主人公ウートレッドも、も、このようなところに惚れて、十字架よりハンマーを首に下げることを好んだのでしょう。
使われている英語
crucifix
キリストが架けられている十字架を、キリストのいない十字架のみの cross と区別して、crusifix といいます。crusify は動詞で、磔にするとか、苦しめるといった意味になりますね。一緒に覚えちゃいましょう。
oath
oath は、「誓い」です。騎士などが領主や王に仕えるときに、この言葉を使います。作中では、”I shall give you an oath, load.” というふうに使われていますね。約束よりも強力で、これを破ったら殺されても構わない、という程の、拘束力のある言葉です。中世ものだと頻出単語ですね。
allegiance
allegiance は、「忠誠」です。ちょっと oath と似てますね。 oath 「誓い」を立てて、allegiance 「忠誠」を捧げるんですね。作中では、The archbishop had given his allegiance to the Danes. というふうに使われています。キリスト教の偉い坊さんが、バイキングに忠誠を捧げちゃってるんですね。錯綜してますねぇ。ちなみに、archbishop は「大司教」です。教区を束ねる司教のボスなので、大権力者ですね。
難易度
本の難易度
比較的新しい作品なのでYLはまだ付いていないです。YLをレポートしている人は1人だけしか確認できませんでした。その方は7.0とつけていらっしゃいましたが、概ね同意です。語数は15万字(1巻)。
正直に言って、けっこう難しいです。YL7だと、洋書に慣れていて、楽しく読める感覚がわかっている人が対称になるわけですが、まさにそのくらいの難易度ではないかと。
長い文章だと5行くらいに渡っていて、andでつながっている2つの分の片方の単語が関係代名詞で修飾され、更にカンマで別の関係代名詞が入ってくるなど、前から英語脳で理解できないと苦痛かもしれません。
語彙は、道具や建物の構造や、中世の世界特有のものは多いですが、奇抜な、覚えても他で使えない難語はありません。YL6の5万語が読めたら、挑戦していいんではないかなと思います。Kindleなら激安なので、単語や表現を覚えるために買っちゃってもいいかもしれません。
オーディオブックの難易度
声の渋いおっちゃん Jonathan Keeble さんがナレーターです。老年の主人公が過去を振り返る語りなので、地の文から渋さが堪能できます。僕は、ラグナー(ユートレッドの養父)の声なんか最高にハマっていて大好きですね。ついニヤニヤしちゃいます。一方で、幼年期のユートレッドや女性の語りのときは、「ホントに一人でやってるの!?」というくらい声色が変わり、きちんと幼さ、頼りなさの情感がでています。
アメリカのオーディブルでは5,800件のレビューがついていて、4.7点ついています。大人気で、評価も「すんばらしい!」ということですね。ナレーターについては、「キャンプの夜に、焚き火の横で冒険譚に聴き入ってる気分になったね!シリーズの最後まで耳を傾けることにするよ!」「本自体も素晴らしいのだけど、Jonathanがそれを更に高みに押し上げてるね!彼のおかげで最高のリスニング体験になったよ!」などと言われています。
human の h の音が落ちたり、リンキングも普通にありますが、クセが強いという程の欠点ではありえません。リスニング力を高めるいい教材になるんではないでしょうか。
僕にとっても、素敵な物語に浸れる、最高の時間でした。15万字は長いんですが、1巻を聴き終ったときには、「もう終わっちゃったの?まだ浸っていたい!ユートレッドの人生はどうなるの!?」となってしまっていました。
幸い、ラストキングダムは12巻まであるので、気に入ったなら、バイキング世界をしゃぶり尽くせます。本って好きなのを見つける楽しさとともに、「もう終わりなの...?」という読み終わったあとの寂しさもありますよね。Last Kingdom なら、ずーーーーっと、作品世界に浸っていられます。
まとめ
もうほんとにおすすめ。ストーリーが傑作で、声優さんも最高なので、「ワンステップ難しいのに挑戦しようかな」という人には最適な教材になるでしょう。
ペーパーバックとkindle版、オーディオブックがあります。教材としての一番のお勧めは、僕のようにkindleとオーディオブック両方を買ってしまうことです。リスニングを鍛えて、読んで確認できて、kindleの辞書機能で意味まで調べられちゃいますからね。便利な時代になったなぁと思います。
オーディオブックだけだと、聞き取れなかったら調べることができません。でも本と一緒に取り組めば、英語のレベルが上がります。最初は聞き取れなかった英語が聞き取れるようになったら嬉しいですよね。
こういう本格的な作品をこなした後には、英語力は飛躍的に向上します。あなたも一度、チャレンジしてみませんか?