洋楽和訳・解説「Someone You Loved」声もメロディも詞も全てが美しいスリーパーヒット

Lewis Capaldi(ルイス カパルディ)の「Someone You Loved」の解説です。

失恋からまだ立ち直っていない、愛する人に捨てられた苦しさを歌った曲です。

読めば読むほど味わい深い歌詞を、解説を読んで楽しんでみてください。

発音練習の題材としても、とてもおすすめの曲です。

発音練習「Someone You Loved」by Lewis Capaldi

この曲ではフラッピングがたくさん出てきます。

フラッピングとは、t の発音が、l のようになることです。

there’s no one to save me の to が「ノーワン ル セイブ ミー」のようになっていますので、聞き取れたら真似してみましょう。

正確な t の発音と区別しながら練習してみてください。

文法解説「Someone You Loved」by Lewis Capaldi

This all or nothing really got a way of driving me crazy

got a way of はスラング的な表現で、正しくは have a way ofです。

have a way of doing something
to have a special habit, especially an annoying one
Ruth has a way of ignoring me that drives me mad.

Macmillan dictionary

この辞書によれば、人をいらいらさせるような習慣を持っていること、とあります。

次に、主語になっている this all or nothing はいったいなんなのでしょうか。

歌詞の後半に、かなり似た This all or nothing way of loving という表現がありますので、this all or nothing は「愛し方」であることがわかります。

そして、「愛し方」が、「人をいらいらさせるような特性を持っている」ことと、それを言っているのがルイスの歌う男であることから、この「愛し方」は、別れた彼女のものであることが導けます。

そういうことで、このフレーズの意味は次のようになります。

This all or nothing really got a way of driving me crazy
君の全か無かという愛は 本当にぼくをおかしくする何かを持っていた

この女の人は過激な愛し方をする人で、彼を狂わせる何か変なことをしたんでしょう。

彼はそれを上手く言葉にすることができないので、「君の愛情が激しすぎて、おかしくなっちゃった」という言い方をしているのだと思います。

ちょっと語順を変えるだけで意味を変えてくる面白みと、それでいて韻もそろっているところ、深いです。

I need somebody to heal

癒してくれる人が必要だ」という訳もありますが、僕は「ぼくが癒す誰かが必要だ」としました。

I need somebody to heal me とあれば、明らかに「ぼくを癒してくれる人が必要だ」となります。

need 人 + to do sth とよく紹介されている構文ですね。

need someone to do something
(人)に何かしてもらう必要がある

英辞郎 on the WEB

heal を辞書で引いてみると、自動詞(Intransitive)「(主語が)治る」でも他動詞(Transitive)「(何か)を治す」でもあると書いてあります。

heal
verb [ I or T ]

Cambridge dictionary

目的語の有無で意味が変わる heal は、me が無いと「ぼくは自分で勝手に回復するだれかが欲しい」となってしまいます。

なので、I need somebody to heal はぼくを癒してくれる誰かが必要だ」にはならないということになります。

そうすると、to heal は、「need 人 + to do sth」構文の to じゃあない。

癒すための」という to heal ということになります。

I need somebody to heal
ぼくが癒してあげる誰かが必要だ

後半で just to know how it feels とも言っています。

なので、気にかけて愛して関わりあえる人がいれば、それがどんなものか感じることができる。(そういう相手がいないので、それがどんなものだったかわからない)

そうやって人の温かみを感じられれば、現状から抜け出せるかもしれないのに、(それがわからないから、行き詰っている)と暗に嘆いている表現なのでしょう。

次の the day bleeds into nightfall とあわせて、相当な孤独感が伝わってきます。

Now the day bleeds into nightfall

bleedは、「出血する」のほかに「ゆっくりと色が移る、滲む」の意味があります。

to spread into or through something gradually

Merriam-webster / bleed

お昼から nightfall 「日暮れ」に時間が経過して、空の色が青から夕焼け、夜の黒へと滲みながらゆっくりと推移していくのを、眺めている様子です。

実際、なんにもせず日が沈むのを眺めていたら、時間が経つのがものすごく遅く感じるでしょう。

それから言葉選びも、spread じゃなくて bleed、dusk でも twilight でもなくて nightfall とネガティブイメージがあるものを並べています。

自分の半身であった人に存在を否定されて、心をもぎ取られたかのようで苦しくてしかたがない。

辛くて何も手に付かないから、ただ時が過ぎるのに任せているけど、時間が経つのがゆっくり過ぎて、それがまた辛い。

そういうどうしようもない悲壮感が感じられる一節です。

Now the day bleeds into nightfall
今、一日が夕暮れに向けて 血が滲むようにゆっくりと移り変わってゆく

and you’re not here, to get me through it all

get throughは、「乗り越える」です。

you get me through という文のかたちなので、「ぼくを乗り越えさせてくれる」という意味になります。

it は、前の節から続いているので、失恋の喪失感や悲しみだと解釈できます。

冒頭の this time I fear there’s no one to save me の this time とあわせて、

「今までは辛いことは君が乗り越えさせてくれていたけど、今はその君がいない(だから苦しみに耐えることができない)」

というストーリーになります。

and you’re not here to get me through it all
そしてこの悲しみを乗り越えさせてくれる君はもういない

I let my guard downand then you pulled the rug

let は 「my guard を down させる」というように使われています。

and then you pulled とあるので、pulled よりも前の話であり、この let は過去形です。

guard down は字面そのままで「防御をおろす」なのですが、have でも get でもなく let なので、主体性に欠けるニュアンスがあります。

そこから、ついついガードを下げてしまった、let my guard down「油断した」という意味になります。

「(彼女なんだから優しくしてくれて当たり前、と)ついつい油断して甘えた」と訳しました。

pull the rug は、文字通り取ると、「絨毯を引っ張る」です。

人が上に立っている絨毯をぐいっと引っ張ったら、すっころんじゃいますね。

日本語の「はしごを外す」「足元をすくう」と同じ意味です。

母親であるかのように油断して甘えてしまったから、彼女はあきれて男を振った。

男にとっては想定外なので、足元をすくわれたように感じた、というわけです。

I let my guard down and then you pulled the rug
ぼくは油断して甘えていた そして君は足元をすくった

I was getting kinda used to being someone you loved

kinda は kind of の略で、日本語の「みたいな」と同じように使われるスラングです。

used toは「慣れる」「昔~していた(今はしていない)」の2つの意味があります。

someone you loved はこの曲のタイトルですね。

me you loved じゃなくて someone なので、「だれでもいいだれか」というニュアンスがあります。

愛されるばかりで、愛そうとしないんだったら、彼女が愛する相手は「ぼく」じゃなくていい、「ぼく」である必要がない。

「彼女に愛されることに慣れはじめていた」から、「油断して甘えて」しまって、愛そうとしなくなった結果、「ぼく」は彼女にとって「ぼく」ではなくなって「どうでもいいだれか」になってしまったということです。

I was getting kinda used to being someone you loved
君に愛される誰かでいることに 慣れはじめてしまっていたみたいだ

I’m going under and this time I fear there’s no one to turn to

turn to は、「~に助けを求める」です。

turn to
ask someone for help

Collins dictionary

I’m going under and this time I fear there’s no one to turn to
心が沈んでいく 今度ばかりは助けを求められる人がいない それが怖い

I fall into your arms

辞書によれば、この fall は、「落ちる」という意味では使われていません。

fall into sb’s arms
When people fall into each other’s arms, they hold each other tightly with both arms, to show their love for each other.

Cambridge dictionary

「胸に飛び込む、深く抱かれる」というニュアンスになるでしょう。

なお、この一節は全て現在形です。

And I tend to close my eyes when it hurts sometimes
I fall into your arms
I’ll be safe in your sound til Icome back around

現在は、彼女に振られた後なので、ここは全部妄想です。

辛すぎて妄想に救いを求めているわけです。

And I tend to close my eyes when it hurts sometimes I fall into your arms
そして今は時々つらいことがあると、ついつい目を閉じて君の腕に深く抱かれるところを想像してしまうんだ

I’ll be safe in your sound til I come back around

come back around は、come back 「戻る」に、ぐるぐる回る around が加わって、「元いたところにもどってくる」というイメージになります。

落ち込んで妄想に逃げ込んでいるところから、元の落ち着いた気分に戻ってくるということで、「回復する」「立ち直る」となります。

また、come back (to where I usually am)と比較すれば、to は「到達点」のニュアンスがあるので、完全復活に近いニュアンスになります。

いっぽう、around は「周りをうろうろ」なので、復活に近い状態には戻ったけれども、また落ち込んだ状態にいつ戻ってもおかしくないと取ることもできます。

I’ll be safe in your sound til I come back around
また立ち直るまで、君の鼓動(もしくは声または吐息、彼女から発せられる音)の中で安全でいられるんだ

この sound はなんの音でしょう。恋人の発するどんな音が、あなたを安心させるでしょうか。

うなずき声なのか、ハミングなのか、吐息なのか、咳払いなのか、衣擦れなのか、心音なのか、それとも慰めてくれる声なのか。

あなたが好きなように、当てはめて聴いてみましょう。

Lewis Capaldi について

Lewis Capaldi(ルイス カパルディ)はスコットランドのシンガーソングライターです。

2歳のころからドラムとギターを始め、9歳の頃にはもうパブで歌っていたとか。

1996年10月生まれなので、本記事の執筆時点でまだ23歳ですが、テレビやライブでの不敵とも言える場慣れした態度は、そのキャリアの長さがそうさせるんですね。

プロデューサーなどが手助けはするんでしょうが、23歳でこんな詩を書いてしまうなんて。敬服。

いや、リリースが2018年11月なので、さらに若いときです。

この Someone You Loved は、sleeper hit「ゆっくり時間をかけてヒットする作品」です。

リリースの4ヵ月後、2019年の3月にようやくイギリスのシングルチャート1位を獲得しました。

そしてそこから、7週間連続でトップを維持しました。

きっと、そこまで知名度がないためスロースタートを切ったが、あまりに曲がいいんで、じわりじわりと広まっていったんでしょう。

まとめ

綺麗なメロディに美しい声、味わい深い歌詞と、何度聞いても楽しめる曲です。

こういうのをアートというんでしょうね。

発音はリエゾン(音の接続)、リダクション(音の消滅)、フラッピング(t の r のような音への変化)が多くて難しく感じるかもしれません。

でも、シャドーイングでそれの練習ができるので、速くしゃべれるようになるし、ネイティブの速い会話も聞き取れるようになります。

この名曲で、ぜひ英語力アップしてみてください。

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